HTML5

2015.10.20

HTML5とは

HTML5とは、Web上の文書記述のためのマークアップ言語HTML(HyperText Markup Language)の最新版(2015年10月現在)である。数字のとおり、5回目の改訂版となる。

HTML5の一番の特徴は、多様化するデバイスおよびリーダー(Webブラウザ)に対応すべく、記述した内容を誰もが同じように読解できるような言語にしてある点(アクセシビリティの担保)。とくに文書型宣言に関してはモードの指定のみの意味をもたせ、XHTMLの構文を採用している。代わりに、文書構造を明確にする記法が採用されている。その他、音声や動画など文字情報以外の多数のメディアをサポートするようになった。

 


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コンテンツの表現力と汎用性を同時に求めたことから、草案(ドラフト)発表から正式な勧告まで6年半以上の年月がかかったが、現在、パソコンやスマートフォンで使用可能な多くのWebブラウザは、このHTML5をサポートしており、一般的な記述言語として浸透し始めている。

その他、ニュースや企業サイトなどであつかう情報としてのWebページ以外にも、JavaScriptなどを組み合わせてアプリケーション言語として活用されるケースも見られるようになっているほか、クラウドサービスと連携した業務アプリケーションなどのエンタープライズ分野での利用も増えてきている。

このように、HTML5が誕生したことで、Webページの表現がより一層豊かになり、同時に、モバイルからエンタープライズまで、さまざまなシーンで利用できるようになった。

 

HTML5の歴史

HTML5がドラフトとして初めて発表されたのが2008年1月である。このとき、WWW(Word Wide Web)が誕生してから約18年が経っており、ブロードバンドや携帯電話の普及により、Webページが一般的になった時代でもあった。一方で、当時利用されていたHTML4では、表現の複雑さや閲覧環境によって異なる表現の差異、とくにアクセシビリティの概念が強まったことで、HTML5ではそれらを再考し、記述できる仕様について言語作成が進んでいった。

HTMLは業界団体であるW3C(World Wide Web Consortium)が中心となって策定を進めていたのだが、HTML5はW3Cではなく、WHATWG(Web Hypertext Application Technology Working Group)が中心となって策定が進められたバージョンでもあった。これは、Webがページではなく、アプリケーションとしての特徴を持つようになったこと、それに起因して、バージョン4までは言語仕様だけが標準化が進み、実装に関してはベンダや開発者が独自に進めた結果、相互互換性が保てなくなったからでもあった。

こうして、技術的進化に加えて、相互互換性、それとともにアクセシビリティに関しても強く意識が働くようになり、6年半の歳月をかけて、2014年10月28日にHTML5が最終勧告となった。執筆時点の2015年10月は、最終勧告からまだ1年しか経っていないことになる。

 

HTML5が提供してくれたもの

すでに解説してあるとおり、HTML5が提供するのは「アクセシビリティの担保」、そして、「音声や動画など多くのメディアのサポート」である。

それぞれについて詳しく説明する。

まず、アクセシビリティの担保である。「アクセシビリティの担保」とは、「どんな状況でも誰もが情報にアクセスできる」ことを意味し、HTMLのベースであるHyperTextの考え方に通ずるものだ。これは、文字などのシンプルな情報であればとくに気にすることはないが、音声や動画など、複雑な情報になればなるほど難しくなる。理由は、技術(機械)的な要因と、利用者(ハンディキャップなど)の要因の2つに分けられる。

しかし、HTML5は、前バージョンのHTML4と比較して、

- 明確な文書構造
- img要素のalt属性の拡充
- 音声・動画要素(<audio>・<viedo>)にテキストトラックを付与

といった仕様に変更された。これにより、「アクセシビリティの担保」をしながらも、音声や動画など、複雑な情報を扱えるようになったのである。どういうことかというと、明確な文書構造に関しては、たとえばヘッダを示すものは<header>、記事であることを示すものは<article>……など、文書構造の意味付けを明確にしているのである。これにより、人間が意図した文書構造を、Webブラウザなどのリーダーやプログラム側が理解しやすくなる。

加えて、alt属性の拡充による画像ファイルのサポート、音声・動画要素のテキストトラック補完と言った形で、より、人間に近い、優しい情報提供が行えるのである。

余談ではあるが、HTMLを記述言語として利用するWWW(World Wide Web:ワールドワイドウェブ)の生みの親、Tim Berners-Leeは「一度作ったURL(URI)、すなわちWebページは変更せず、残すべき」と情報アーカイブの重要性を強く主張している。アクセシビリティの担保は、このアーカイブの重要性と対で考えることであり、HTML5のリリースは、HTMLが目指す世界に一歩近づいていると筆者は考えている。

続いて、音声や動画など多くのメディアのサポートについてである。前バージョンのHTMLが扱ってきたのは、基本的に文字情報が中心で、音声や動画といったファイル・メディアについては別のアプリケーションのものを、プラグインなどを利用して表現するのが一般的であった。しかし、HTML5では、あらかじめ<audio>や<video>タグが用意され、今までよりもシンプルな記述で利用可能となった。

その他多数のAPIが用意されたことで、静的な情報だけではなく、ユーザの行動に合わせた情報提供など、アプリケーション的な表現を実現できるようになった。とくに、ドラッグアンドドロップなどのインターフェース操作やユーザの位置情報を利用した表現を実現するなど、HTML5は単なるWebページを超えた、サービス・コミュニケーションツールとしてのWebの実現をサポートする言語となっている。

 

電子書籍とHTML5

最後に、電子書籍の観点から、HTML5について考察してみる。

まず、前提として、電子書籍の定番フォーマットになりつつあるEPUB3は、HTML5とCSS3をベースにしている。言い換えれば、今(2015年)の電子書籍にはHTML5やCSS3は欠かせない技術である。

 

表現力豊かなHTML5だからこそ気をつけること

前述のとおり、HTML5は非常に多彩な表現を実現できる言語である。これは、一世代前の電子出版・電子書籍で言われていたマルチメディア・リッチコンテンツの実現に一役を買うであろう。

しかし、この点が電子書籍とHTML5の関係で注意しなければいけない点の1つだと筆者は考えている。よく「電子書籍なんだから表現力豊かなものができる」という意見や考えを耳にすることがある。その要因はHTML5(をベースにしたEPUB3)が表現力豊かな言語仕様だからである。ただ、言語仕様がそうだからといって必ずしも表現力豊かなものをつくる必要があるかというと、そうではない。

とくに紙で製本・出版された書籍の観点で電子書籍を考えた場合、まず、その構造を意識することが大事だろう。それは、表紙であり、扉であり、本文であり、索引であり、“書籍”の体をなすために必要な要素である。さらにブレイクダウンをして、ページの中にある見出しや脚注、図なども、書籍として重要な要素だ。

ここで、HTML5の特徴である「文書構造を明確にできる」という点を思い出してほしい。これこそが、電子書籍にHTML5を採用する最大のメリットではないだろうか。その上で、伝えたい情報を拡充すべく、音声や動画といった表現力豊かなメディアを利用する、という流れが、これからの電子書籍に求められていくと筆者は考えている。

この点については、そもそも紙の書籍の概念に縛られるかどうかという議論もあるが、筆者は、紙の書籍の概念を外したコンテンツは、電子書籍ではなく、アプリケーションなど別のコンテンツとして扱ったほうが良いと考える。

 

電子書籍は読み手に環境を委ねる

もう一点、HTML5はアクセシビリティの担保が行える、すなわち、誰もがどのような状況でも同じように情報にアクセスできる(情報を得られる)点にも気をつけたい。

HTML5で表現されたコンテンツは汎用的な環境で閲覧できる。たとえば、パソコンだったりスマートフォンだったり、公共の場にあるデジタルサイネージだったり。HTML5はこれらのスクリーンに対して、(記述上は)同じ情報を提供できる。しかし、その画面サイズや色味は、デバイスに依存する。結果として、読者が利用する環境によって、見る(目の前の)レイアウトは変わってしまう。つまり、HTML5の多様性が、読者環境の選択の幅を広げているわけである。

これは、紙のようにレイアウトが固定されているコンテンツとはまったく異なる特徴であり、HTML5を利用する電子書籍にも当てはまる。この点も、電子書籍に関わる人間がHTML5を扱う際に意識しなければいけないポイントと筆者は考えている。つまり、紙の書籍と異なり、「電子書籍は読み手に環境を委ねる」ということである。

 

まとめると、HTML5が持つ

- 豊かな表現力
- (読み手に対する)豊富な閲覧の選択肢

こそが、電子書籍の観点から見たHTML5の特徴であり、電子書籍に関わる立場、とくに編集者やデザイナーなどの制作者はこの点を意識した編集・デザインが求められていくだろう。さらに、Webで扱えることにより、電子書籍の流通、すなわち配信の形態も変化するため、営業やマーケティングの変化も意識する必要がある。

このように、HTML5という技術がもたらしたものは、メリットも注意点も多数ある。だからこそ電子書籍の可能性がますます広がっていくと筆者は考えている。

[馮 富久 株式会社技術評論社 20151020]


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