XMDFとは
XMDF(ever-eXtending Mobile Document Format)は、シャープ株式会社が提唱し、開発、普及促進を進める電子書籍フォーマットの1つである。
1999年、シャープが開発したPDA「Zaurus」やパソコン向けの電子書籍のフォーマットとして提供を開始した。その後、2001年、シャープ以外のベンダが提供する電子書籍コンテンツやリーダーにも採用が始まる。XMDFは日本の企業であるシャープが開発した技術のため、ルビや段組などの日本独自のレイアウトを意識したフォーマットとして、国内での採用が進んだ。
そして、2015年現在の電子書籍・電子出版ブームが来る直前、AppleからiPadが出た2010年とときと同じくして、同社が開発・提供を開始した電子書籍プラットフォーム「GALAPAGOS」の展開と合わせて、次世代XMDFを提案し、普及・促進を図る。
現在、多くの出版社や電子書店がEPUB採用の動きを強化する中、スマートフォン・スマートタブレット時代より前から電子書籍・出版ビジネスに取り組んでいる企業ではXMDFの利用を継続しているところもある。
EPUBとの一番の違いは、シャープという一企業が開発し、権利を持っているフォーマットであるため、電子書籍の出版にあたって利用料が発生する点である。
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XMDFの歴史
日本の家庭用コンピュータの普及は1995年に登場したWindows 95とともに始まった。その直前、数年はワープロを使った文書作成など、一部ではデジタル化がスタートし、いよいよ紙の出版物もデジタル化が行われるのではという機運が見えた時期でもあった。
また、出版業界にもMacintoshを利用した編集レイアウト、いわゆるDTPの導入が始まり、書籍の電子化は始まり始めていた。
その中で、シャープ株式会社が取り組んだ電子書籍技術・フォーマットがXMDFである。1999年のリリース当時から、日本の書籍の組版を意識したものとして開発が進められており、ルビや段組、縦中横、外字など、日本独自の表現を想定した技術でもあった。
1999年~2000年にかけて日本のモバイルブームが到来した。専門的なユーザはPDA(Personal Data Assistance)を利用し始めた他、iモードの登場により、一人一携帯電話時代となり、パソコンではない、モバイルデバイスを利用するユーザが日本国内で一気に増加した。このモバイルデバイス上で書籍を読むという動きも生まれ、シャープが提供するデバイスZaurusはもちろん、PalmやPocketPCなどのデバイスでも利用できる「ブンコビューア」をシャープが提供することで、電子書籍ユーザの拡大を図った。加えて、各キャリアの端末用のXMDFリーダー「電子ブックビューア」の提供も行い、「モバイルデバイスでの読書」を行うユーザが増えた。しかし、日本独自の組版という部分よりは、日本独自のコンテンツ、ライトノベルやコミックといったジャンルでの普及が多かった。
そして、PDA/携帯電話→スマートフォン/スマートタブレットへのシフトに合わせて、XMDF提供元であるシャープが2010年に発表した電子書籍プラットフォームが「GALAPAGOS」である。これは筆者の主観ではあるが、正直成功したとは言えず、その後の、iOSおよびAndroid端末のトレンド、海外大手電子書店の到来の波に飲み込まれ、XMDF自体が廃れ始めている印象がある。
2015年のXMDF
上記の歴史でも書いたように、2015年現在、積極的にXMDFを採用した電子書籍や電子書店は少ないと筆者は見ている。ちなみに、XMDFと同様に日本独自の電子書籍フォーマットとして一時期普及した.bookに関しては、提供元の株式会社ボイジャーがEPUBへのシフトを行うなど、日本の電子書籍フォーマットの流れも変化を見せてきている。
日本独自の観点で、日本の電子書籍体験を牽引してきたXMDF、そして.bookといったフォーマットは、2015年でその役目はひとまず終えたのではないかと考えている。
なお、XMDF(そして.book)で制作した電子書籍に関しては、現在、さまざまな企業や有志によってEPUBへ変換するツールの提供が行われており、過去の資産の活用といった動きも見えている。
[馮 富久 株式会社技術評論社 20151019]