DRMとは
音楽、映像、ゲームや書籍など、デジタルコンテンツの違法コピーや無制限な利用を防ぎ、著作権を保護するためのデジタル著作権管理の技術を、Digital Rights Management(DRM)という。映画など映像のストリーミング市場において多くのシェアを持つWindows Media DRMや、iTunes Storeで導入されたFairPlay、電子書籍向けのAdobe DRMなどが一例である。
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DRMには、コンテンツファイルの複製そのものを制限するもの、複製は可能だがファイルが暗号化されていて閲覧・視聴などの利用ができないもの、有効期限や印刷を制限することで利用できる範囲をコントロールするものなど、保護したい目的や程度に応じたさまざまな手段と方法がある。また、複製も利用も可能だが、違法コピーの抑止を目的とした電子透かしなどもDRMに含まれる。
背 景
デジタルコンテンツは何度コピーしても、どんな遠くに送信しても品質が劣化せず、同じものを簡単かつ大量に複製可能である。音楽、映像や書籍などの著作物は、デジタルコンテンツ化することで、CD・DVDや書籍のような物理的な制約を介さずに、大量かつ広範囲に配布・交換が可能であり、流通コストもほとんどゼロに出来る。
一方で、著作権者に許諾を得ずに、違法なコピーや配布も簡単に出来てしまい、違法コピーによる経済的損失は大規模になる。このような背景から、著作権者にとってDRMは違法コピーを防ぐための技術として必要とされる。
DRMの仕組み
DRMは、コンテンツデータを暗号化し、公開鍵と秘密鍵という二つの鍵を組み合わて利用する方法が一般的である。暗号化の方法や鍵の組み合わせ方、暗号の強度は、DRMを提供するベンダー各社様々である。DRMを利用するには、DRMをコンテンツファイルに付与する著作権管理機能を実装したシステムと、復号化して暗号を解くための専用ソフトウェアが必要。具体的にはPCやスマートフォンなどのOS、再生プレーヤーやビューアなどのソフトウェアやメモリカードなどの記憶媒体に組み込まれたり、これらを組み合わせたシステムによって、コンテンツは保護される。
電子書籍では、電子書籍ストアが採用したDRMを用いてコンテンツを暗号化する。ダウンロードされたコンテンツは閲覧時にビューア側で復号化されて表示される仕組みである。
電子書籍における課題
DRMは、出版社や著作権者にとって必要不可欠な技術である。しかし一方で、読者はストア毎にビューアを使い分ける必要があり、紙の書籍を本棚に蔵書するような一元管理も出来ない。また、自由に友達に貸したりプレゼントすることも原則できない。紙の書籍で出来る当たり前のことや、電子書籍ならではの便利な機能が、DRMによって制限されるため、読者にとってはデメリットな側面もある。
Adobe DRM、AmazonのAZW、AppleのFairplayは、電子書籍市場できな大きなシェアを持つが、Marlin、CypherGuardといったDRMをはじめ、各ストアが独自に開発したものも含めると、さまざまなDRMソリューションが存在する。多くの電子書籍ストアが専用ビューアを提供しているのは、使い勝手やサービスの差別化だけではなく、各ストアが採用する異なるDRMが組み込まれていることも理由の一つである。
また、違法コピーを防止する技術であるDRMは、その特性上、技術的詳細が一般には公開されない。もしDRMベンダーがDRMの提供を終了してしまった場合、購入したコンテンツが将来も利用可能かどうかは、必ずしも担保されない。PCやスマートフォンを買い換えた場合にデータの移行が出来なかったり、それまでに購入したコンテンツが利用できなくなる場合もある。100年単位で書籍を蔵書、アーカイブすることが要求される図書館にとっても、コンテンツの長期保存、再利用性という観点からリスクである。
ソーシャルDRM、DRMフリー
システムに強く依存するDRMに対して、システムにあまり依存しないDRMをソーシャルDRMやDRMフリーという。メールアドレスなど個人情報の一部を電子透かしとしてコンテンツに埋め込む方法が一般的。複製は可能だが、利用者の特定ができる。必ずしも専用ビューアを利用する必要がなく、読者は使い慣れたビューアを利用できるといったメリットがある。
もし違法コピーが出回った場合、利用者自身の個人情報も出回ってしまうことになり、心理的な抑止効果が期待できる仕組みである。このように、社会的に出回って欲しくない個人情報を利用することから、ソーシャルDRMと呼ばれる。
音楽ではAppleやAmazonをはじめとして、DRMフリーのビジネスモデルが一般的になった。しかし、学術書や専門書、実用書や一般書など、用途も利用形態も価格帯も異なり、権利保護に対するニーズがそれぞれ異なる出版物において、ソーシャルDRMやDRMフリーは普及するだろうか。
ソーシャルDRMやDRMフリーを採用した例としては、ハリー・ポッターの電子書籍サイト「Pottermore」が有名である。日本では、技術書を出版するO’Reilly Japanが、自社の電子書籍をDRMフリーで提供。2014年にはJTBパブリッシングが「たびのたね」にソーシャルDRMを採用し、大手出版社の採用事例として話題になった。
BCCKSは読者がEPUBをダウンロードする際に、購入者情報を埋め込むことができる「EPUBソーシャルDRM機能」を提供している。
ReadiumLCP
ReadiumLCP(LicensedContentProtection)は、異なるEPUB3ビューワー間の表示差異をなくし、EPUB3の普及とオープンなデジタル出版プラットフォームを推進するために、Readium財団が推進するオープンソースの開発プロジェクトによって、出版業界向けに開発されたデジタル著作権管理(DRM)である。これは上記で述べたDRMのデメリットである相互運用性を解決し、コンテンツ保護に関する公共図書館、書店、出版社の要件を満たすことができる。
ビューアにLCPを統合することで、EPUB2およびEPUB3(オーディオおよびビデオコンテンツが埋め込まれているものを含む)、PDFドキュメント、ReadiumパッケージWeb出版物のコンテンツ保護と相互運用性を担保することができる仕組みである。
DRMと電子納本
2022年5月17日、国立国会図書館法等の一部を改正する法律が成立し、有償又は DRM ありの民間のオンライ ン資料(電子書籍・電子雑誌)についても提供を義務付け、2023年5年1月から収集を開始することとなった。DRM付きで流通しているオンライ ン資料は、DRM無しの状態のファイルが収集される。
雑 学
ちなみに、暗号技術は軍事技術の一つに位置づけられ、暗号技術の国内外への輸出入は各国で規制対象とされてきた。このような背景から、ある一定以上の強度の暗号技術を使ったDRMを含むソフトウェアの日本国外への持ち出しや輸出に当たっては、「外国為替および外国貿易法」に基づく輸出許可等の手続きが必要となる場合がある。
[内容改訂 20220712]