ワンソースマルチユースとは
ひとつの素材(=ワンソース one source )を複数の用途(=マルチユース multi use )に用いるという意味で使われる。出版、Web等のメディア関係では、ある媒体用に収集・制作したテキストや画像・動画、デザインなどのデータを用いて、新たに他媒体を制作するような場合を指す。いわゆる素材の流用や二次・三次利用も含まれる場合もあるが、考え方としては、構造化されたデータやデータベースなどを利用した情報の一元管理や企画設計段階からの多元的利活用を前提としたワークフローなど、よりトータルな概念で用いられることが多い。
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事 例
・紙媒体
書籍、雑誌などの制作がDTP化され、プリプレス工程がデジタルデータとなることにより、既存データの流用可能性が大きく拡大することとなった。例えば、複数の雑誌のバックナンバーから新たなムックの作成、年度版図書等での過去データの修正活用等が挙げられる。また、カタログ等のように一定のデザインフォーマットが整った媒体では、データベースと自動組版を組み合わせることにより更新版、抜粋版等の制作やメンテナンスを低コストで行うことができる。
・SGML/HTML/XML
主にテキストデータに関しては、SGML( Standard Generalized Markup Language )に端を発するHTML/XMLなどの構造化データが、元来ワンソースマルチユースの考え方を具体化したものとも言える。タグ付けによって文字列の各部分の意味合いをメタレベルで記述し、構造と表現を分離することで、機械的な処理による多面的な利用が可能となる。
・ResponsiveWebDesign
スマートフォンやタブレット等、Web利用環境の多様化に伴い、2011年ごろからWeb制作の手法として普及してきた Responsive Web Design もワンソースマルチユースのひとつと言える。PC用サイトとスマートフォン/タブレット用サイトをそれぞれ制作・管理してきた従来の手法に対し、単一のソースコードで、複数のスクリーンサイズでも一定の見やすさ、使いやすさを実現できる。
・紙/Web/電子書籍/アプリ
例えば、印刷物のDTPソフトとして普及しているInDesignでは、Web用HTMLや、電子書籍フォーマットであるEPUBへの書き出しが可能であるため、一連のワークフローの中で、ワンソースマルチユース(紙/Web/電子書籍/アプリ)を実現できる環境は整いつつある(ただし、各媒体への最適化のためには、現状、まだ媒体ごとの作業が必要とされる場合も少なくない)。
また、紙からデジタルメディアへという動きとは逆に、Web技術ベースのCSS組版によるマルチユースを前提としたドキュメント制作など、同一ソースから複数媒体での多様な利用を可能とする手法は、現在もさまざまな形で進展しつつある(例:Vivliostyle — 楽しく CSS 組版!)。
課 題
・ワークフロー、制作ノウハウ
単品ごとの制作に最適化された現場では、ワンソースマルチユースでの制作への移行はワークフローの大きな変更や新たに必要とされるノウハウの習得などを伴うことになる。ワンソースマルチユース化にあたっては、メリットとともにこのコストとのバランスを考慮する必要がある。
・経理・財務関係
従来の単品単位での制作に対して、ワンソースマルチユースの際には、原価の資産化や、その償却期間の妥当性など財務的にも検討が必要となる場合がある。
・権利契約関係
従来の出版活動では、単一の媒体での公開を前提として、著作権、出版権、肖像権等の契約がなされていたが、ワンソースマルチユースで素材を活用する場合には、それらの見直しが必要となる場合も発生する。
[内容改訂 20220518]