マークアップ

2015.08.21

マークアップとは

マークアップとはコンテンツに対して指示マークをつける、マーク付けすることである。マークアップの目的はさまざまである。ここでは編集者によるエディトリアル・マークアップ、文書を再利用するためのマークアップ言語、HTML(Hyper Text Markup Language)タグによるWebページのマークアップ、テキストを簡単な記号でマークアップしてHTMLタグに変換する軽量マークアップ言語を取り上げる。また、出版におけるマークアップの位置づけを解説する。

 

 

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エディトリアル・マークアップ

編集者が、テキストを再入力するための指示や組版作業者に対する指示を、著者の原稿に記入することをエディトリアル・マークアップという。テキストの挿入、削除、置き換え、入れ替え、終了、分離、句読点の変更、ダッシュとハイフン、大文字化、小文字化、イタリックとボールド、段落のインデント、フラッシュ・ライト/レフト、縦方向の空きなどの指示をプリントされた原稿に記入する。また、見出しを階層化して文章の構造を明確にし、テキストの表示方法―引用、箇条書き、テキストボックス―を区別する要素を指示する。指示の仕方には、丸で囲む方法、アンダーラインやキャレットなどの記号を使う方法、例えば章のタイトルを<ct>のようなタグを用いて表現する方法がある。レイアウトに関わるタグに対しては、デザイナーが、別途、レイアウト指示を追加することもある。こうしたマークアップやタグのコード化は分業で仕事をするための便宜的なものであり、一緒に仕事をする編集者、デザイナー、組版制作者の間で合意があれば、その具体的な方法は自由である。

 

 

マークアップ言語

エディトリアル・マークアップに着想を得て、1960年代の終わり頃からコンピュータによる文書処理のためのマークアップ言語の設計が始まった。その最新版はXML (Extensible Markup Language)である。XMLでは、用途別にXMLボキャブラリーというタグセットを定義できる。タグセットは社内や特定グループ内の合意として規定されるものから、世界標準になっているものまで無数にある。ユーザーが新しいタグセットを自分の用途に便利なように決めても良い。テキストの制作者は用途に応じたボキャブラリーを選択して、そこで規定されるタグを用いてテキストをマーク付けする。マークアップされたテキストはサーバーやデータベースに蓄積される。テキストを利用する際には、マークアップを使ってテキストを組み立て、さまざまな出力形式に変換する。マークアップ言語の主な利用目的は、コンテンツを再利用できる資産として蓄積・交換することである。

 

 

インターネット・コンテンツ用HTML

HTMLの登場

1990年代に登場したWorld Wide Web は、インターネット上に分散配置されるサーバーに蓄積されたマークアップ済みコンテンツを、次々に端末に取り込みながらWebブラウザでダイナミックに可視化する。インターネットのコンテンツは、HTMLタグでマークアップされている。初期にはHTMLタグでコンテンツのレイアウトも指示したが、だんだんHTMLタグとレイアウトを分離するようになった。現在では、HTMLタグは主に文脈を指定し、レイアウトはCSS(Cascading Style Sheets)で指定する。ブラウザはコンテンツに付与されたHTMLタグとCSSによるレイアウト指定を解釈してコンテンツを可視化する。

HTMLのマークアップ作業

最新のHTML5では、100個以上のタグが規定されている。例えば、文章の大きな区切りをsectionタグで、見出しはh1~h6のランクタグで指定する。タグが多数あり、複雑なことから、Webページを適切にマークアップするには、HTML専用のオーサリングツールを用いることが多い。しかし、HTMLタグの知識が十分あれば、テキスト編集ソフトを使って手作業でマークアップもできる。

軽量マークアップ言語

プログラムのマニュアルなどをHTMLで作成する開発者は、HTMLオーサリング・ルーツを使わずテキスト・エディタで記述することを好む。しかし、テキスト・エディタでHTMLタグを直接マークアップするのは作業負荷が大きい。そこで、原稿テキストに簡単な記号でマークアップし、プログラムを使ってHTMLタグに変換する方法に人気がある。またWikiでは、ブラウザのフォームでテキスト入力するが、その際に簡単な記号でマークアップし、内蔵のプログラムでHTMLに変換して表示する仕組みを採用している。こうした方式を軽量マークアップ言語(または、簡易マークアップ言語)という。その代表例としてはMarkdownとMediaWikiを代表とするWiki記法がある。軽量マークアップ言語の利用者は開発者が中心である。

 

 

マークアップとWYSIWYG

マークアップと可視化の分離

マークアップはコンテンツの文脈やレイアウトを、コンテンツとは別のタグにより指定する考え方である。エディトリアル・マークアップ、XML、HTMLで共通しているのはコンテンツに指示をするマークアップ工程と、コンテンツを利用(組版・可視化など)する工程の分離である。分離することにより、マークアップしたコンテンツを共有・交換・再利用できる。

WYSIWYG方式の登場と普及

1980年代半ばに、ビットマップディスプレイ、アウトライン・フォント、ページプリンタといった技術が広く使えるようになり、コンテンツの制作ではWYSIWYG方式(What You See Is What You Get)がマークアップ方式よりも優勢になっている。WYSIWYGとは画面上で表示されているレイアウトと印刷レイアウトが同一という意味である。WYSIWYG方式のワープロやDTPでは、画面上にレイアウトされた状態のテキストを対話的に編集する。DTPを使えば、画面を見ながら、複雑で高度なレイアウトを簡単に指定できるので、出版ではDTPを使うワークフローが普及している。一方、DTPではコンテンツとレイアウトが渾然一体の状態で編集作業が行われ、レイアウトは印刷に特化してしまう。レイアウトを整えるためにコンテンツの文脈が無視されがちで、完成したコンテンツがDTPソフトの独自形式となり再利用しにくいという問題がある。

将 来

電子書籍の代表であるEPUBのコンテンツはマークアップ方式で制作する。DTPとマークアップは相対立する方法であり、DTPで制作したコンテンツをEPUBにするには、再編集作業が発生することが多い。出版ではDTPで見栄えを重視した売れるレイアウトが重視されるが、マークアップ方式はDTPほどの自由度がなく、見栄えの良いレイアウトを制作する技術は成熟していない。こうしたことからEPUB制作のために既存の枠組みを転換するのは難しい。WYSIWYGとマークアップの相反をアウフヘーベンするブレークスルーが必要である。

[小林 徳滋 アンテナハウス株式会社 20150810]