6月27日、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスから「SFC研究所と株式会社KADOKAWA、株式会社講談社、株式会社集英社、株式会社小学館、株式会社出版デジタル機構は、未来の出版に関する研究をおこなうAdvanced Publishing Laboratory(APL)を共同設置」という長いタイトルのプレスリリースが出ました。
直訳すると「先端出版研究所」なのですが、この設立の経緯や概要について紹介します。
Advanced Publishing Laboratory(以下「APL」)は大手出版4社と出版デジタル機構がW3Cの東アジアホストである慶應大学SFC研究所と共同で設置した標準化研究・推進団体です。
2010年度の総務省「電子出版基盤整備事業」でEPUBに縦書き、ルビ、禁則、縦中横などの日本語組版が実装されました。2012年には「電書協EPUB 3制作ガイド」も公開され、EPUB 3は日本でも電子出版物を様々な電子書店に提供する際の標準形式となっています。
EPUBの推進団体IDPF(International Digital Publishing Forum)は、今年2月、正式にW3Cに統合され、今後の仕様検討はW3Cで行われることになりました。
この動きに呼応し、今後のEPUB標準や日本での電子出版を研究・推進する目的でAPLが設立されました。JEPAはAPLの設立や運営に協力しており、私は広報を担当しています。
以下のWG(Working Group)が活動を開始しており、今後さらに増える可能性もあります。
●EPUB WG 金井剛志リーダー(ソニー)
IDPFよりW3Cに移管された電子書籍標準規格のEPUB 3.0/3.0.1について、日本国内での利用、保守管理、研究を担う。さらに今後の電子書籍企画の標準化について、国内の様々な業界からの意見集約を行い、これを国際的な標準化活動の中で海外に向けて発信していく。
本WGメンバーは、継続的に行われるW3CのTV会議に参加し、必要に応じて国外で行われるF2Fミーティングに参加する。
●Accessibility WG 村田真リーダー(JEPA CTO)
障害者差別解消法の精神に則ったデジタル技術の活用によるアクセシビリティの研究を行う。とくに、W3CおよびISO/IEC JTC1における標準化、EPUBをアクセシブルにするためのガイドライン制定を目指す。
●JLreq(日本語組版の要件) WG 小林龍生リーダー(個人) JEPAフェロー
EPUB 3策定にあたって大きな影響を与えたJLreq(Requirements for Japanese Text Layout)を電子化における優先順位の観点で記述し直す。JLreqの個々の要件が、どういう理由で何のために成立したかを活版印刷以前の和本の伝統にまで遡って検証し(日本語書記技術の機能論的検討)、これによってW3CでのCSS、EPUBの規格に日本語組版要件を適切に反映させることを目指し、次いで電子書籍制作、閲覧、Webブラウザー等への実装を促進する。
W3Cへの提言には、中国、台湾、韓国のエキスパートとも連携し、CJKreq(Requirements for CJK Text Layout)といったWorking Group Noteの形式とする。
また、日本語書記技術の機能論的検討の成果は、『日本語書記技術論集』(仮題)として論文集の形態で出版することも目指す。
●LCP(コンテンツ保護) WG 三瓶徹リーダー(JEPA事務局長)
商用DRMは利用者の利便性を損なうだけではなく、出版する側にとってのデメリットも大きいという指摘がある。商用DRMに代わる方法として、「DRMのないEPUBをそのまま配布する」、「オープンなDRMであるLCPを用いたEPUBを配布する」、「ストリーミングによって閲覧させEPUBは配布しない」という三つの選択肢がある。
このWGでは、オープンなDRMであるLCP(Licensed Content Protection)の欧米・韓国での動向を調査し、その国際標準化動向を把握する。目的は商用DRMに代わる方法が必要になったとき、その選択肢をどのようにして採用するかの判断材料を提供することである。
各WGのメンバーは招待制ですが、WGによっては誰でも参加し議論できる場を用意します。また、WGの進捗状況や様々な新技術を紹介するセミナーの開催やドキュメントの公開も行う予定です。