EPUB3

2015.12.09

EPUB3とは

EPUB3とは、電子書籍のファイルフォーマット規格の1つEPUBの最新メジャーバージョンである。別項「EPUB」でも説明しているように、EPUBはIDPF(International Digital Publishing Forum:国際電子出版フォーラム)と言う電子出版・電子書籍に関わる国際的な標準化団体が仕様を策定し、普及促進をしているもので、EPUB3は2011年にリリースされた。

その後、EPUBでの解説にも書いたとおり、策定団体がIDPFからW3Cへ統合され、開発が進められている。

前回のebookpedia記事公開(2015年12月)以降、次のマイナーバージョンとなる3.1(2017年1月)がリリース、現在の最新は2019年5月にリリースされた3.2となる。

 

もっと詳しく!

EPUB3の特徴

続いて、EPUB3の特徴について紹介する。EPUB3の一番の特徴は日本語組版を大きくサポートした点である。とくに

・縦組み
・縦中横
・禁則処理
・ルビ

といった日本の書籍で必要となるものがサポートされた。

これらの項目からもわかるように、EPUB3の特徴は「日本語組版の基本的な機能」をカバーしている点と言えるだろう。実現する技術として、HTML5やCSS3で策定されたものを利用している。

 

EPUB3を扱う際の注意点

前回の記事から7年が経ち、多くの出版社がEPUB3ベースの電子書籍・雑誌を提供し始めるようになった。

当時に比べて、EPUB3を前提とした制作~配信体制は格段に整備され、シェアも増えて入るものの、注意すべきポイントは残っている。

その1つは、前回の記事でも書いた、InDesignをベースに制作した書籍・雑誌の表現(レイアウト)と、EPUB3(HTML+CSS)で制作した電子書籍・雑誌の表現の差である。

多くの関係者の方々の尽力により、EPUB3にも、日本語を始めとしたマルチバイト言語や、縦組み、ルビといった特殊表現に関する仕様が盛り込まれ、正式に採用されてきているのは大変喜ばしいことであり、出版社としては感謝したいことの1つだ。

しかし、ここで注意しておきたいのは、各電子書店が提供するリーダーごとに、EPUBの解釈が異なり、Aという電子書店では読めるEPUBでも、Bという電子書店では読めない、という状況が生まれている。

この点は前回の記事公開時にも触れたが、7年経った現在も完全に解消はされていない。その理由の1つに、電子書店側の開発の判断、また、電子書店にデータを納品する電子取次のチェック体制の差異(技術面での優劣の差、ビジネス判断による妥協など)によるところが大きい。

この点は、筆者としては非常に残念で、ぜひリーダー開発やチェック体制の整備については、今後も積極的に推進してもらい、仕様通りのEPUBであれば、読者がきちんと読める環境が整備されていくことに期待している。

結果として、EPUB3でコンテンツを制作する場合は、仕様の理解やepubcheckによるチェックとは別に、実機のリーダーでのチェックは、2022年7月現在でも欠かせないステップとして残っている。

なお、2022年7月現在での最新のepubcheckのバージョンは4.2.6となっており、EPUB3.2の仕様に対応している。

 

最新バージョン3.2と開発版バージョン3.3

最新のバージョン3.2は、前回の記事での最新版であった3.0.1、その後のマイナーバージョンアップの3.1の後継バージョンに当たるもの。なお、策定団体はW3Cではあるが、コミュニティグループ策定のため、厳密にはW3C標準ではない。

1つ前の3.1については、3.0.1とさまざまな面で互換性がない部分が多く、結果として普及せず廃盤となり、3.2の開発に進んだ経緯がある。

そのため、3.2は、3.1で追加された仕様や変更を保持しながらも、3.0.1との下位互換性を保っている点が特徴。

その他、アクセシビリティへの対応(EPUBAccessibility)に関する勧告が含まれたことは大きな特徴と言える。

また、CSSのサポートに関して、CSSワーキンググループのスナップショットからのCSSワーキンググループの定義を使用することになり、より一般的なCSSサポートが進むことになった。

現在開発中の3.3は、Editor’s Draftの位置付けとなっており、日々、変更が加わっている。たとえば、EPUBの構成要素について大きな変更が行われ、文書構造が目的ベースとなり、コア仕様、ビューワ要求、アクセシビリティ対応と言う、大きく3つの仕様書に分かれた。

また、日本市場のさまざまな要求を取り込むバージョンとしても非常に大きな期待が持たれている。

 

固定型EPUBについて

EPUBの中でも、固定型EPUBに関しては、日本ではその地位を完全に確保した。

とくに、コミックや雑誌から電子化が浸透した日本においては、固定型EPUBによる提供が増え続けた結果、今では、多くの出版社でも固定型EPUBを利用している。

固定型EPUBの是非についてはここでは触れないが、日本での「電子コンテンツの数を増やす」という観点で、固定型EPUBが与えてきた影響と、その実績は非常に大きい。

 

日本でのEPUB3制作状況

繰り返しになるが、EPUB3で日本語組版のサポートが強化されたことにより、日本で出版される各種コンテンツもEPUB3への移行が進んでいる。技術の標準化、そして、技術進化の観点では非常に好ましいと言えるだろう。

一方で、日本の組版は世界でも非常に多彩で、複雑なものでもある。そのため、まだまだ細かな点では独自の表現や解釈が行われ、さらに、表示するためのリーダーが対応しきれていない部分がある。この点をさらに解消するには、出版社をはじめとしたコンテンツホルダー(クリエイター)たちが、EPUB3のコンテンツ制作を推進し、問題点の表面化とその解決が進むことを望む。

今後は、アクセシビリティの観点でも固定型だけではなくリフロー型EPUBの制作が必須になっていくことが予想され、そのためにも最新のEPUB3の仕様を理解し、それを最大限活用したEPUB3制作が、これからの日本の電子出版市場をさらに成長させていく、と筆者は考えている。

 

[馮 富久 株式会社技術評論社株式会社GREEP  20151019]
[内容改訂 20220720]